本当のわらしべ長者のお話

ボックスの下枠

今は昔、京に父母も妻子も主人もない青侍(あおざむらい)がいた。ある時、長谷観音に参詣し、「私が生涯貧乏で終わるなら、ここで餓死します。何か少しでもお与えくださるなら夢でお知らせください。そうでなければここを動きません」と言ってひれ伏した。僧たちはこれを見て困惑し、食べ物を与えているうちに、二十一日過ぎた。その暁、夢に僧が現れ、「お前が寺を出て行く時、手に触れたものがあれば、それが賜り物だから持って行くように」と言う。そこで寺を出て行くと、大門(だいもん)の所でつまづき倒れた拍子に、一本の藁が手に触れた。これがお告げかと思い、もって帰る途中、虻が顔の周りを飛び回る。うるさいので捕まえて藁しべで括って持って行くと、長谷詣で(はせもうで)に来た貴族の女車(おんなぐるま)に出会った。車には幼児が乗っていて、男の持っているものが欲しいと言う。従者が男から貰い受け、代わりに蜜柑三つを与えた。男はそれを木の枝に結び、肩にかけて歩いていると、供を従えた身分ありげな人が徒歩で参詣するのに出会った。その人は疲れて息も絶え絶え、しきりに水を欲しがる。男は側に寄り、持っている蜜柑を与えると気力を回復し、喜んで行李(こおり)に入れて持参した食べ物を出して男をもてなしたうえ、立派な布三反をお礼によこした。男は藁しべ一本が布三反になったことを喜びながら歩いているうちに日が暮れたので、近くの小家(こいえ)に宿って翌朝出発した。また歩いていると、立派な馬に乗って来る人に出会った。その馬が目の前で急に倒れて死んでしまった。乗り手は茫然としていたがやがて駄馬(だば)に乗り換え、供の者に死んだ馬の処理を命じて行ってしまう。男が供の者に近寄って行くと、「馬は陸奥(むつ)産の名馬で大切にしていたが、死んだからせめて皮だけでも剥ぎたいのだが剥いでもここでは始末に困る」と言う。男は「私は近くに住んでいるから処理できます。譲ってください」と言って布一反をやって死馬(しば)を買った。そして長谷観音の方に向かって礼拝し、馬を生き返らせ給えと祈った。すると馬は目を開けて立ち上がった。そこで残った布一反で鞍(くら)を買い、もう一反で秣(まぐさ)と自分の食料を買って京に上がった。だが、こんな名馬を持っていると人から怪しまれると思い、売ってしまおうと考えて九条(くじょう)まで来ると、たまたま何処かへ旅立とうとする人の家が目についたので、声を掛けると買おうと言い、いま絹や布の持ち合わせがないから、この南にある田と米とで交換してくれという。男は承知(しょうち)した。その後、その田からとれた米をもって生活の資(もと)としたが、以来どんどん豊かになっていった。これもひとえに長谷観音のご利益であると思い、尊んで参詣し続けた。

参考文献
「今昔物語」
巻十六の二十八

ボックスの下枠

  • 略縁起
  • 観音縁起
  • 藁しべ長者
  • 馬頭夫人
  • 登楼